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幻想へと至る道? ― 「吸血鬼の真祖」

「吸血鬼」という架空の存在は、歴史的にも複雑で重層的であり、説明することが非常に難しいものであるが、簡潔に語るとすれば、ぼくは吸血鬼には「伝承型吸血鬼」と「創作型吸血鬼」との二種類の系譜があると考えている。

「伝承型吸血鬼」は歴史的に見ても古いもの(古代ギリシア発祥か?)で、現在の目から見ると「悪霊」とか「ゾンビ」のようなものに近い。あくまでそういった「吸血鬼」は「不死者」であって、現在の「吸血鬼」のイメージとは程遠いものである。

伝承中の吸血鬼は、そもそも「吸血」という行為自体をするものが稀だし、その具体的な呼称もよく知られた「ヴァンパイア(Vampire)」だけではなく、各地方・年代ごとに様々な呼称があり、その性質や能力も多岐にわたる。東欧の伝承見ると、エムプーサ、モルモー、ノスフェラトゥ、ヴルコラク、ストリゴイ、ヴコドラク、クドラクなど様々な吸血鬼伝承が存在している。西欧で定着した「ヴァンパイア」という呼称も、トルコ〜ギリシアブルガリアの一地方で「吸血鬼」を表す、ヴァンピール(ヴァピール)を変形させたものに過ぎない。

なので、今ある一般的な吸血鬼のイメージは、近代以降に東欧から西欧に持ち込まれた「創作型吸血鬼」によるものと言っていい。

一般的な「創作型吸血鬼」というと、旧来の「伝承型吸血鬼」のように、十字架やニンニクを嫌い、太陽の光を浴びたり、心臓に杭を打ち込まれると死ぬ、などというものもあるだろうが、強大な力を持ち、貴族のような格好をして、美形で、相手を魅了し、美女(または処女)の血を好むという「悪のカリスマ」というイメージが不可欠だろう。その「吸血鬼」のイメージは、有名なブラム・ストカーの怪奇小説「ドラキュラ」が元祖だと思われがちだが、実はそうではない。

そのイメージの大本は、イングランドの有名なロマン派詩人のジョージ・ゴードン・バイロン卿である。

19世紀までに、東欧から西欧に導入された吸血鬼の概念によって、様々な吸血鬼作品が作られていたし、バイロン卿自身もまた1813年に吸血鬼詩『異教徒』を発表していたが、これらはみな詩の体裁をとるものであって、吸血鬼を主人公とする「小説」という形で発表されたのは、バイロンの主治医、ジョン・ポリドリの小説『吸血鬼』が最初であった。そして、そこに登場する吸血鬼「ルスヴン卿 (Lord Ruthven)」こそが、バイロン卿をモデルにし、現在の吸血鬼のイメージを決定づけた「創作型吸血鬼」の祖である。

元々、知的な美形で社交界でも有名で、数多くの女性遍歴で知られたバイロンだが、1816年に異母姉との近親相姦のスキャンダルにより、イングランドからヨーロッパ大陸に逃げるように旅に出ることとなった。それにポリドリも随行したわけだが、彼とバイロンも同性同士の浅からぬ関係にあったと考えられる。

その後、バイロンとポリドリは、スイスのレマン湖のほとりの別荘「ディオダディ荘」に腰を落ち着けることになった。しばらくして、ディオダディ荘には五人の男女が集まったが、その交流の中で、メアリー・シェリー(当時はゴドウィン姓)が『フランケンシュタインの怪物』を、そしてポリドリが『吸血鬼』をそれぞれ着想した。これが怪奇ファンにとって有名な「ディオダディ荘の怪奇談義」である。

ポリドリの『吸血鬼』はもともと、バイロンが書き散らしていた『断章』という作品をもとに完成させたという。ハンサムな吸血鬼ルスヴン卿が、ロンドン社交界に現れ、純情な若者オープレイの恋人と妹を餌食にしたあげく、彼を絶望の淵へ突き落してしまうという内容だった。

ポリドリはバイロンを熱狂的に崇拝していたが、同時に冷たくあしらわれる事が多く、愛憎入り乱れる感情を抱いていた。そのアンビバレントな気持ちがバイロン卿をモデルにしたルスヴン卿に結晶化したのである。女性を毒牙にかけ、男性をもその魅力で翻弄するルスヴン卿の誕生は、それまで東欧の田舎の民話で語られていた垢抜けない怪物であった吸血鬼が、貴族的、知的、性的な逸脱者にして残酷な悪の貴公子となった瞬間だった。

なんかコレジャナイ感のルスヴン卿

個人的ルスヴン卿のイメージのアルカードさん

ルスヴン卿のイメージを踏襲していない吸血鬼を、現代の創作物の中に見つけることは困難であろう。ブラムストーカーの「ドラキュラ」でさえも、言ってしまえば、ルスヴン卿の亜流にすぎない。これだけ、鮮烈で不朽のキャラクターイメージが他に存在するだろうか。ポリドリの『吸血鬼』は熱狂的に当時の西欧で流行し、小説のみならず、演劇・歌劇にも影響を与え、後の映画文化にも多大な影響を与え続けている。

日本のサブカルチャー界隈には、血統的に古く強力な力を持った吸血鬼という意味で、「真祖(しんそ)}という言葉があったりするのだけれども、本当の意味で「創作型吸血鬼」の「真祖」と言えるのは、ルスヴン卿だけなのだ。

真祖といえば、FGOでアルクェイド実装はよ